読了!
米澤穂信さんの作品は本当に期待を裏切らない面白さだ。
面白さが安定しているので、安心して読んでいられる。
間違いの無い作家が描き出す、間違いの無い物語です。
春季限定から夏季限定ときて、この秋期限定を是非とも読んでください。
(何が面白いのか、とか詳しい説明一切無しで申し訳ない。機会があれば、また書きたいと思います)
クドリャフカの順番
米澤穂信
いやー!
何度も言うようですが、面白かったー!
それも米澤作品の中でも随一の面白さだった。
もちろん、これはあくまで個人的な独断と偏見と趣味による問題と……作中の言葉を借りれば「主観」の問題なのかもしれませんが、それでも私はこれが随一面白かった!
まあ、あくまで今まで読んだ米澤作品の内で、なんですけどね。
つまり「遠まわりする雛」と「インシテミル」は未読なので、判定の対象外ということです。
ちなみに、この米澤穂信さんの作品にはシリーズモノと単発ものがありましてね、私のお気に入りは古典シリーズと小市民シリーズ。まあ双方ともにシリーズなわけで、残るシリーズものは本当にシリーズものになるのかどうかまだ分からない、つまりまだ一作しか出ていないS&Rシリーズというものなんですが、しかしまあ、矛盾するようですがそれにも大いに期待しています。
ああ、作中の言葉を借りれば、「期待」とは諦めからくる言葉だそうですよ。なるほどなと思わされました。是非、一読してみて確認してもらいたい。
さて、感想に入る前に既刊分の説明を行いましょう。シリーズシリーズ言われたって分からない人にはわからないでしょうし。
<古典シリーズ>
・氷菓
・愚者のエンドロール
・クドリャフカの順番
・遠回りする雛
<小市民シリーズ>
・春季限定いちごタルト事件
・夏季限定トロピカルパフェ事件
<S&Rシリーズ>
・犬はどこだ
<単発モノ>
・さよなら妖精
・ボトルネック
・インシテミル
まあ、米澤さんの公式ホームページを見れば容易く分かることなわけですが、一応参考までに。
しっかし、あー面白かった。
繰り返すようだけど面白い。
「面白い」という単語の意味が薄れてきてしまうほどに連呼してしまってるわけですが、それだけ面白かった。
まさか推理系でこんなに面白くなれるなんて知りませんでした。
元来、ミステリーに対してはなんとなく面倒そうだなあという意識が働いてしまって、腰が重くなる感じだったんですが、とんでもない。
他の方の作品にはまだほとんど手を伸ばしていないので何とも言えないところですが、少なくともこの米澤穂信さんの作品は相当に面白い。
ありゃ。
ここまで、面白い面白い言ってばかりで内容についてまったく言及していませんでしたね。いかんいかん。これでは相手に伝わるはずが無い。まあ元より、読んでもらわなければこの面白さを伝えることが出来ないわけですし、この熱意さえ伝われば十分じゃないかなあという気もしないではないですが、それはまあ置いておいて、言及しましょういきましょう。
この作品は、とある高校で行われる文化祭を舞台にした物語です。
クドリャフクの順番
「十文字」事件
だなんて重苦しい感じの表題ではありますが!
その実、内容はすごくポジティブ。
推理ものって言ったら、殺人とかが相場であって、こういう手のもにしてみればそれが相応にして当たり前と言う風になっていますが、そんなネガティブな展開は微塵も無い。
極めて軽やかです。それでいて仕掛けは重厚!
まさに、細工は流々後は仕掛けをごろうじろってなもんですよ。
(作家視点から)
部活で三十部発行する予定だった文集を間違って二百部注文してしまい、どうやって売り切ろうか四苦八苦するのも見ていてとても愉快でした……ってなんだかこの言い方だと私が物凄く性悪みたいじゃありませんか。……まあ、さして間違ってもいないような気がしないでもないですが。
お料理対決なんかもありましたね。
最後なんて、まさかあの壊れた万年筆がそんなふうに最終局面へと繋がるなんて、想定外もいいところでしたよ。
コスプレ生徒の青春漫画論争、とある漫画を中心に繰り広げられた青春の一ページ……。
さあ、これを見て興味をひかれたかたは即刻書店へゴーですよ。
もしくは図書館で借りちゃいましょう。
もちろん、一巻の「氷菓」からね。
氷菓
米澤穂信
いやー、大好きだ!
米澤さんの本は、本当に大好きだ。
話がいちいち面白い。
登場する面々もいちいち凝っている。
もう、いちいち素晴らしい。
かんったんにこの本を説明すると、こんな感じ。
日常にある、日常的に発生する実に普遍的などこにでもある謎。
それに好奇心旺盛で見た目清楚な少女が食らいつく!
「わたし、気になります!」
しかし気になったところで答えは分からない。
考えてみるが分からない。
しかし答えは知りたいどうしても。
……そういう時は、解ける人に頼ればいい。
出来うる限り行動しません。やりません。省エネ基本主義学生のご登場。
本当ならばやりたくない、けれど空気がそれを許さない。
嫌々ながらも、言い逃れるほうが面倒だと考えて、
「……そうだな、面白い。少し考えてみるか」
と嘯いた。
まあ、そんな感じです。
殺人だとか、そんな物騒なものはありません。
ただ日常的なちょっとした謎を卓越した発想力、閃きで解決してしまう作品です。
皮肉な駄洒落がきいていたり、いやあ、実に面白かった。
さっそく二巻にあたる愚者のエンドロールを読むとします。
The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day
乙一 × 荒木飛呂彦
……あぁ、面白かった。
充実した時間だった。
私は漫画のノベライズというものは今まで読んだ事が無かった。
それはオリジナルに敵うはずがないじゃないかという傲慢な考え方が頭のどこかにあったせいかもしれない。
だけど、敵うとか、敵わないとか、そもそもそれが間違っていた。
不覚としか言いようが無い。
ノベライズとオリジナルでは、確かに色々と違うところがある。
だけどそんなものは些細なものだ。
要はどれだけその本に、執筆者の想いが込められているかどうかって問題に行き着くんだと思う。
そしてその先に、面白いかどうかという問題に突き当たる。
そこにノベライズやオリジナルの差異など皆無だろう。
妥協や諦観で良い本は生み出されない。
どれだけ作品に敬意を表することが出来るのか。
どれだけ作品に想いを寄せることが出来るのか。
どれだけ作品に時間を捧げることが出来るのか。
乙一さんは原稿用紙400枚分を書いては気に入らないと没にする事を繰り返したらしい。
その結果、二千枚以上を没にしたという。
そしてこの作品は、五年という歳月をかけて完成された。
その作品は、見事に洗練され、完成されていた。
ジョジョの世界を文字という媒体で、完全に呑み込んでいた。
ジョジョならではの伏線が散りばめられた肉体的知能戦にも驚かされた。
まるで荒木さんがその場面を描いているかのように、脳裏にその情景が浮かび上がってきたからだ。
本当に、時間を忘れて貪り読んだ。
いや、むしろ貪り読まされたと言ったほうがいいような気がする。
特に、続きが気になる場面でも、盛り上がりを見せるような場面でもないところでも、ページを繰る手が止まらなかった。
乙一さんのスタンド能力じゃないだろうなあと訝んだほどだ。
これは間違いなくジョジョです。
荒木さんと乙一さんが混じり合って生まれたジョジョです。
第四部ジョジョの外伝にあたる物語と言えましょう。
ジョジョファンは必見ですよ。
私はこの作品が大好きです。
P.S
コチラで試し読みが可能です。
ほんの少しだけですので、正直これでこの本にのめりこめるかどうかは分かりせんが……参考程度に一度足を運んでみてはいかがでしょう。
※今回は、多少のネタバレを含みます。
けれどもこの作品を楽しむにあたり、さほど問題にはならないと思うので是非読んでほしいです。
また、もう既読だよ!って人も読んでみてください、そしてどんなものだったのか、興奮を思い出してください。
そして、共有しましょうこの想い! コメント大歓迎!
砂漠
伊坂幸太郎
数々の比喩を用い言葉遊びを展開させる伊坂幸太郎さん。
今回も見事にやられました。
あなたのことが大好きです。
この作品を語るにあたり、絶対に外せない登場人物が西嶋だろう。
「誰一人だって外せないよ」という声もあるかもしれないが、西島という人物を思い出すとこれも仕方の無い事だと思う。
彼ほどの強烈な個性を見せ付けられて、魅せられてしまった私は彼を思わずにはいられない。
始まりは冒頭部分の居酒屋から始まる自己紹介からだった。
それは最早自己紹介から遠くかけはなれ、アメリカの横暴を静観して黙っているなと、つまりはまあそんな内容でした。
その最後の締めに、こう言ったんです。
自信をみなぎらせ、明晰に断言したんです。
「あのね、俺達がその気になればね」
「砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」
それはつまり、なんだって出来るんだってことを言いたかったんでしょう。
ハートにずどんときましたね。
しかしですね、この作品内では三島由紀夫さんの事についても触れられていました。
三島由紀夫さん、ご存知でしょうか。
私は名前だけは知ってましたが、この人がどういう人だったのかはこの作品で初めて知りました。
その内容は軽くしか触れられていませんでしたが、それだけで興味を持つ引き鉄となるには十分な理由でした。
そんなわけで、Wikipediaで調べてみました。軽く。
要するに、その人は憂えていたんでしょうね。日本を。
そしてどうにかしたいと思ったんです。
確固とした断固たる決意をもって、俺が日本を変えてやると。
それで、行動を起こすんです。
偉い人を人質にとり、幾人かの人と交戦し、篭城し、自衛官とマスコミに三十分間演説させるよう要求したんです。
結果、それは通りました。させてくれるってことになったんです。
それで三島由紀夫さんは演説に向かいました。
しかし、待ち受けていたものは「三島ーっ、頭を冷やせー!」「何考えてんだ、バカヤローっ!」などの野次。
それだけでは無く、「昼食の時間なのに食事ができない」などという不満も出てくる始末。
また報道ヘリコプターの音がうるさく七分で切り上げられたということです。
そして、三島由紀夫さんは想いが伝わらなかったという無念さと共に、切腹をしました。
どうでしょうこれ。
彼の意見を受け入れろってつもりは毛頭ありませんが、これは文字通り命を懸けての演説だったわけです。
人質を取った際にも、要求を受け入れられなければ人質を殺して切腹すると言っていたのです。
決意と覚悟は本物なわけです。
その行い自体はどう気休めに考えてもアウトなわけですが、それでも、それでもですよ。
それだけの覚悟を伴って行った演説が、昼食の欲求に負けているんですよ。
真面目に聞こうともせず、そんな事を言われるんですよ。伝わらないんですよ。
つまりは、砂漠に雪を降らせなかったってことなんですよ。
決死の覚悟で想いを託そうとする人間の言葉が、無碍にされているわけですよ。
伝わらないんですよ。
伝わって、その上で受け入れられないのならば仕方が無いと思うのですが、一切合財伝わっていないんですよ。聞く耳を持ってもらえないんですよ。既存の観念に囚われて、新しい考えにまったく耳を傾けようとしないんですよ。
私も、もしそこに自衛隊の一員としてそこにいれば、同じ様な冷ややかな目で眺めていたのかもしれません。
だけれども、私は今そんな立場じゃない。
だからこそ、言いたい。
この作品を読んだからこそ、声高々に言ってやりたい。
「あのね、俺達がその気になればね」
「砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」
って。
また、西嶋はこんなことも言っていました。
世界中で起こる戦争をニュースで見て、なんの感慨も無く静観するのではなく、悶えるように見ろ、と。
何事も我関せずで済ますのではなく、心ぐらい痛めろよ、そしてあわよくば行動せよと、そういう事なんでしょう。(そんな彼はしょうもない事ばかりしているわけですが)(まあそんなところも大好きですが)
これは人によって色々と言いたい事があるでしょうが、私は大好きですその考え。
大いに共感しました。
まだまだあります。
彼は、たまたまとある動物管理センターの飼い主募集の欄を見たんですよ。
その最後のほうに居たシェパードがですね、保護期間がちょうどその日までだったんですよ。
保護期間が過ぎれば……どうなるかはお分かりでしょう。
彼は躊躇い無く引き取りました。
自分のところでは飼えないというのに、何の躊躇いも無く引き取りに行きました。
友人は、君はこれから先、保護期間が過ぎそうになった犬を全部ひきとるつもりなのか? と呆れながら言います。
そしたらですよ、そんなわけないじゃないですか、とこれまた簡単に断言するんですよ。
そしてその後に、
「ただ今回は、たまたま、見ちゃったからね」
って。
これもまた、人によっては言いたいことは沢山あるでしょう。
だけど私は大好きです。
何も助けずに見切るのと、一つだけでも助けてから見切るのでは、やはり後者のほうがいいじゃないかよって思わざるを得ないです。
ああ、語りだすと止まらない。
大好き過ぎる。
この本は、本当に、心の底からみんなに読んでほしいです。
私はこの作品が大好きだぁーッ!
あけまして、おめでとうございまーす!
今年一発目の記事は書評から入りたいと思います。
XBOX360関係からきたひとも、ちょっと見てってくださーい!
素晴らしいですから!
ゴールデンスランバー
伊坂幸太郎
要は、首相殺しの濡れ衣を着せられた主人公が、東奔西走逃げ回るお話です。
これは物凄い勢いでお勧めしますよ。
それも、今のような正月休みなど時間の有る時に一気読みするのが一番です。
それというのも、「一気に読みたくなる本」だからです。
読んでいると、そういう気分させられる。
ワタシがよく言う惹き付ける引力というのももちろんあるんですが、もっと物理的に、続きが気になるんですよ。おいおいコレどうなっちゃうの? ええ、こうなっちゃうの!? じゃあ次は!? みたいな感じにです。
この小説は一行でまとめられるほど単純なストーリーですが、その分奥行きがひどく深い。
伊坂幸太郎さんの小説に対する情熱が顕著に、存分に、発揮されている。
伊坂さんのセンスが光る伏線が散りばめられ、豊富な知識から練りだされたストーリーには脱帽するしか有り得ません。
その中でも特に、伏線の収束していく様は美しいと言っても過言では無い。
素晴らしい文章は、輝いて見える。
輝いている……というのはさすがに比喩ではあるのですが、そう表現しても構わないと思っています。
理路整然と整えられ、それぞれの筆者特有のセンスで練り上げられた文章というのものは、それだけ本当に美しい。
その文章だけが、他の文章から浮かび上がっているように見えるほどです。
出来るのであれば、そういった文章だけで作り上げられる本こそが、小説家の到達点なのかもしれませんが……、しかしまあ、それは「毎日が日曜日」みたいなものなのかもしれません。
休みはたまにあるからこそ有り難いものなのであり、輝いて見える文章というのも、たまにあるからこそ輝いて見えるのかも、しれませんねー。
しかしながら、この伊坂さんの描き出す物語には、そういった輝いて見える文章の割合がなかなか高い。
つまりは、素晴らしいということです。
いくら美辞麗句を並べ立てようと、最終的に行き着くところはソコです。
「小説」という媒体の見本のような、教科書のような一冊なのです。
それだけ完成度が高い。
非常に高い。
実に実に面白い。
是非ともご一読あれ。
ワタシはこの作品が、大好きだあー!
ミミズクと夜の王
紅玉 いづき
とても綺麗で、美しい作品です。
この作品は一度読み始めると止まりません。
まるで暴走列車の如く、最初から最後まで一気呵成に読み終えました。
そして今、ここで感想を書いています。
実はこの作品を読むのは二度目になるわけなのですが、それでもこの作品の素晴らしさが色褪せる事はありませんでした。最初に読んだときと変わらず、私の魂を打ち震わせてくれました。
この感動をどうにかして読者諸君にもお伝えしたいのですが、私にはどうも技量が足りないようだ。何を書いても汚してしまいそうな、そんな気がしてならない。
だから、登場人物のことも、物語の事も、あえて何も語りません。
私の下手な解説で、この物語を壊したくはありませんからね。
概要、あらすじでも知りたければ、検索してみるのがいいでしょう。
この広大な電脳世界には、素晴らしい書評が満ち溢れています。
……ただ、ひとつだけ。
作家である紅玉いづき先生が語った、私の心に深く刻まれた一節だけ、ここに引用させていただこうかと思います。
「私安い話を書きたいの。歴史になんて絶対残りたくない。使い捨てでいい。通過点でいいんだよ。大人になれば忘れられてしまうお話で構わない。ただ、ただね。その一瞬だけ。心を動かすものが。光、みたいなものが。例えば本を読んだ事も無い誰か、本なんてつまんないし難しいって思ってる、子供の、世界が開けるみたいにして。私がそうだったみたいに。そういう、ね。ああ。小説を、書きたいな」
私はこの作品が、大好きです。
※ ゲームの感想は別の記事でやってます。
永遠を旅する者 ロストオデッセイ 千年の夢
重松 清
かの者は常に一人。
孤独を愛するわけじゃない、一人になりたいわけじゃない。
だけどそれでも、かの男は常に一人。
……いや、常にでは無い。
千年の時を生きる彼には、友と呼べる人間、恋人と呼べる、妻と呼べる人間がいた。
しかし彼ら、彼女らは、千年の時を生きる事が出来ない至って普通の人間である。
否応無く、一人になってしまうのだ。
帯にはこう書いてある。
彼は老いず、ただ去りゆくのみ。
彼は死なず、ただ別れるのみ。
「その寂しさ―――
あんたにわかるかい?」
分かるはずが無い。
千年。千年だ。
一体全体、彼はどれほどの死を、別れを、目の当たりにしたのであろうか。
そしてその度に、どれほど心を痛めたのだろうか。
分かろう筈が無い。
これは千年を生きた男の物語。
千年という莫大な時間に埋もれた、切なさと儚さが入り混じる僅かな時間がここに在る。
私はこの作品が、大好きです。
【新釈】 走れメロス 他四篇
森見登美彦
この作品には五作の短編が納められております。
どれもこれも粒揃いの一品ではございますが、ここではわたくしが惚れに惚れ抜いた走れメロスについてのみ、語る事に致します。
そう、皆様もよくご存知かもしれません、あの太宰治による不屈の名作、国語の授業にひっぱりだこで、文学史上に名を残す、あの名作でございます。
それを、あの森見登美彦氏が、以前わたくしが尊敬と畏敬の念を以て賞賛されて然るべきだと、目の中に入れても痛く無さそうなほどに絶賛したあの森見登美彦氏が、描き出したのです。
わたくしはこの作品を読みつつ、
「た、確かにこいつぁ走れメロスだ! 話に沿っていなくもない気がしなくともないではないか!」
と、何度そう思った事かもはや分かりません。
これは確かに走れメロスであるのです。走れメロスの形骸が確かに存在しているのです。
しかしそれはあくまで形骸のみで、中身は確固たる森見登美彦氏的世界観。
独特であり、繊細でもある文体、そして愛すべき登場人物。
この世界は完膚なきまでに完成されている。
陳腐な表現を使わさせていただけますれば、わたくしは声を最大限にまで引き上げてただ一言。
「最高」
と、そう叫び、この場の幕引きとさせていただきまする。
敬具。
森見登美彦さん。
この人は尊敬と畏敬の念を以て賞賛されて然るべき人物である。
とは言え、私はこの偉人と直接出会い、言葉を交わした事は無いのでその中身を見定める事までは出来ませんが、少なくとも文面から読み取れる表面上のものぐらいならば見て取れる事と思います。
そして、この方はそれだけで十分ではないのでしょうか。
うん、おそらく十分です。
この方を語るにおいて外せないのがその文体。
私はこの方の文章ほど滑らかにすべりこんでくる文を知りません。
なんだか私の読書不足を吐露しているような感じに捉えられるかもしれませんが、そうではありません。
本当にこの方の文章は洗練されているのです。
例えるならばご飯です。コシヒカリ、最上級、ぴかぴかでつやつやの極上美人のお米です。
その為、どれだけ読むに値しない唾棄すべき内容であったとしても、この文体で書かれておれば、するりするりと読みふける事が可能でしょう。
しかしまあ、そんな作品を読む事はおそらく無いと言えます
この森見登美彦氏の作品に限って、そんな唾棄すべき内容の文章が綴られる事など有り得ないのです。
本人がなんといおうが、有り得ない。そう確信しております。そしてこれをいつか森見登美彦氏が読む事を想定し、より面白い作品をつくらなければ!という重圧を与える事が出来ればこれはもう大成功と言わざるを得ないでしょう。そんな日は来るのだろうか、来るといいなあ、期待して待つ事にします。もしお読みいただければ、ご一報してみてはいかがでしょう。特に特典もなければ、有意義とは対極に位置する時間の使い方になる事も
必至ですが、なになに、とりあえず私の喜ぶ姿が文面の上から覗く事が可能となります。
……誰も見たがらない?
……返す言葉もございません。
さて、そろそろ読書に戻る事に致します。
実はまだ題名にある二作品しか読んでおらず、今は新釈メロスを読んでいる最中でございますので。それが終われば次は太陽の塔です。今から高鳴る胸が抑え切れない程に、期待で色々なところが満ち溢れております。
私はこの著者が、作品が、文体が、好きで好きで大好きで辛抱たまらない事この上無しでたまりません!